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善く生きるとは (「中庸」タイトル〜序)

 「中庸」は全三十三章。これを分かったのは南宋朱子である。この一連の記事では、この三十三章にのっとることとし、必要に応じて、それぞれに対する諸学者の解釈を提示し、読者の理解の助けとする。煩雑をさけるため本文と朱子注には原文を付し、他の学者の説には要約するのみとする。なお、時系列を重視して鄭玄説などといった朱子以前の注釈は「古注」として、朱子説よりも先に提示し、朱子以降の注釈は「諸注」として、朱子説の後に提示する。

 

【原文】中庸

【古注】

(「経典釈文」から)鄭玄は、「中庸」は「中和」の観念を実践すること、すなわち、「中の作用」という意味をもっているとする。また注中では、「庸」に「常」の意味をもたせている。すなわち、鄭玄においては「庸」は「用」「常」の二元性をもち、「中庸」とは「中和の実践・常道」という意味を示しているのである。

朱子注】

 [原文] 中者、不偏不倚、無過不及之名。庸、平常也。

 [拙訳]中というものは、特定の立場に偏った状態でも、何かに依拠する状態でもなく、過ぎることも及ばないこともないことを示している。庸というものは、平常であるということである。

 

 

【諸注】

 

(「大全」から) 新安陳氏は「不偏不倚」とは「中」の性質のうち表に出ることのない「未発の中」を示しており、これが形而上的な「中」の形態であるとし、「無過不及」を実際の行動として現れる働きとしての「中」の形態であるとする。

 

(「大全」から)雲峯胡氏は本篇における「中庸」とは「未発の中」と「時中」の二つの意味をもち、「論語」「孟子」において「中」を「無過不及」と表現しているのとは、文脈上やや意味を異にする。そのため、「不偏不倚」と加えて「中庸」における形而上・形而下の「中」の性質を朱子は表したのであるとする。 

 

(「解義」から)「中」は天下の正道であり、「庸」は天下の定理であると解釈する。これは、後述の程子の注釈以来の通説である。

 

「中庸章句」

【原文①】子程子曰、不偏之謂中、不易之謂庸。中者天下正道、庸者天下之定理。此篇乃孔門伝授心法、子思恐其久差也。故筆之於書、以授孟子

【拙訳】程先生のことば「偏らないことを中という。変わらないことを庸という。だから、中というのは天下の正しい道で、庸というのは天下の定まった理(ことわり)なのである。この一篇(「中庸」)は孔子以来の弟子たちが代々伝えた心を修める法であるが、子思はこれが後世誤った解釈が紛れ込むことをおそれた。そこで、これを叙述し、孟子に与えた。

【語注】

子程子:程明道・程伊川兄弟のこと。北宋の人。

理:ことわり。天理、道理、法則。

心法:心を修める方法。あるいは、以心伝心をもって伝えられる奥義。

 

【原文②】其書始言一理、中散為万事、末復合為一理。放之則彌六合、巻之則退蔵於密。其味無窮、皆実学也。善読者、玩索而有得焉、則終身用之、有不能尽者矣。

【拙訳】(程先生のことばの続き)この書物の始めには一つの理を述べ、中ほどでは万事に細分化され、最後でまた合わさって一つの理となる。この理を放てば宇宙をおおい、これを身の内に巻けば、心の奥深くに宿される。その味わいは無限であり、すべて実学である。これをよい読者はしっかりと考えることがあれば、一生これを用いても、教えを汲み尽くすことなんてできないだろう。

【語注】

六合:りくごう、と読む。上下四方、すなわち宇宙のこと。

退蔵於密:「易経」繋辞上篇第十一章「聖人以此洗心退蔵於密」より。意味は拙訳を参照されたし。

実学:現代日本言われている「実学」の出典はここであろう。原義的には、充実した学問。転じて、学べば成果のある学問。

 

【朱注】

[原文] 朱子曰、始言一理、指天命謂性。末復合為一理、指上天之載。始合而開、其開也、有漸末開而合、其合也、亦有漸。 中散為万事便、是中庸所説許多事如知仁勇。許多為学底道理与為天下国家有九経及祭祀鬼神。許多事中間無些子罅隙、句句是実。

[拙訳] 朱先生は言う「始めの言葉に一つの理があるということは、「天命は性という」という冒頭の一文を指し示している。最後にまた一つの理になるというのは、「上天のこと」という末尾の一文を指し示している。始めに合致して開くことが、開く、ということであり、しばらくして開いた末に合致する、というその合致するということにはまた時間を要する。中間で分散して万事の便利になるということは、これは中庸の所説のうち知仁勇などといったおおく言説が該当する。多くの言説は学問の根底の道理や天下国家の統治の九の方法、鬼神をまつることにまで及ぶ。これには、いささかも隙間などなく、言葉のそれぞれが皆充実している。

※下線部、現在文意不明であるので後日訂正。

(つづく)